クリルオイルはうつ病症状を改善する

うつ病は、世界人口のおよそ16%が罹患する精神疾患であり、生活の質を大きく損なう深刻な問題です。その予防や治療において、食生活がメンタルヘルスに重要な役割を果たしていることが知られています。とくに、EPAやDHAなどのオメガ3脂肪酸(PUFA)は、うつ病と診断された人で顕著に低下していることが多く、注目されています。しかし、それらがどのようにしてメンタルヘルスに影響を与えるかは、まだ十分に解明されていません。
本研究では、お母さんのお腹にいるときに慢性的なストレスを与えたマウス(PRS)を用いて、脳に届きやすい形のオメガ3脂肪酸(リパーゼ処理をすることでLPC型EPA・DHAに強化されたクリルオイル)を多く含む食事が、うつ病や不安のような行動にどのような影響を及ぼすかを調べました。妊娠中にストレスを与えられた母マウスの子どもは、成長後に通常よりもうつ病様や不安様の行動を示しました。
脂肪酸を分析してみると、PRSマウスの脳内DHA濃度は、ストレスを受けていないマウス(NS群)に比べて有意に低下していました。しかし、リパーゼ処理クリルオイル由来の試験食を与えたところ、その濃度は正常にまで回復しました。また、行動試験においても、PRSマウスは通常よりも静止時間や遊泳時間が長くなるなどのうつ病様行動を示しましたが、リパーゼ処理クリルオイル由来の試験食を摂取した群では、これらの行動が改善されました。不安様行動においても同様の効果が認められました。
一方、ストレスを受けていないNSマウスに対しては、リパーゼ処理クリルオイル由来の試験食を与えても行動への影響は確認されませんでした。このことから、リパーゼ処理クリルオイル由来のLPC型EPA/DHAは、ストレスによって引き起こされた特定の行動異常を選択的に回復させる可能性が示唆されます。
この研究は、リパーゼ処理クリルオイルが、うつ病様症状の回復に効果がある可能性を示唆しています。特に、この形のオメガ3脂肪酸は、一般的なサプリメントよりも血液脳関門を通過しやすいとされており、将来的にはうつ病予防への応用が期待されます。
「New Form of LPC-Omega-3 Beneficial for the Prevention and Treatment of Depression – A Novel Finding」
Current Developments in Nutrition Vol8,Supplement2, 103189, JULY 2024
Sugasini Dhavamani 1、Poorna C Yalagala 1、Raquel Romay-Tallon 1、Dennis Grayson 1、Papasani V Subbaiah 1
1.イリノイ大学シカゴ校、アメリカ